あいつと知り合ったのは20歳ぐらいの時だった。
日雇いの仕事で出会った。
学生だがボヘミアン的な生活を送っているSKIIという男だ。

彼と初めて出会った日は曇り空だった。
その日は大した会話もなく仕事が終わるとそれぞれ帰った。
日雇いの仕事なんてそんなものだ。
それからたびたび同じ現場(仕事)になって、少しづつ話すようになった。
共通の日雇い友達も加えてしばしば一緒に飲み歩くようになった。
共通の友達は名前をGXといって中野に住んでいた。
ある晩、三人で彼のアパートで飲んだ。
4畳半の部屋には静かにザ・ドアーズのストレンジデイズが流れている。
GXはエビスビールだ。
ビールぐらいは旨いもん飲みたいからね。
黒い長髪をゆっくりかきあげながら呟いた。
裸電球が天井で鈍い光をフラフラさせている。

SKIIはアブサンという酒を持ってきていた。
黄緑色の液体がビンの中で揺らいでいる。
ラベルにはどこの国かわからない言葉が書かれていた。
それがさらに不思議な雰囲気を醸し出す。
彼は今日は奮発したと言ってグラスに注いでくれた。
冷蔵庫から氷を出してきて2,3個入れると黄緑色の液体が白濁した。
マグマのように氷がジュっと音を鳴らしてじわりと溶ける。
グラスを口に持っていく。
甘い奇妙な芳香が鼻を刺激する。
SKIIは大きく口を開けてケムリを深々と吐き出した。
口に含む。
強いアルコールと始めての感覚に酩酊しそうだった。
アブサンの魅惑と共に。
2008年5月21日 執筆
アブサンという銘柄の酒はあるが昔のものとはやはり違うのだろう。
この酒は現在ではぺルノーやリカールで代用されている。
この酒を知らない人がいるかもしれないので外部リンクを参照して頂きたい。
アブサン ウィキペディア 飲酒連( アブサン)
現在ではどこのバーに行ってもぺルノーは置いてある。
カクテルにもあまり使われないし、注文するお客様も少ないのは想像に難くないと思う。
それもあって時々注文が入ると、どんな人が飲んでいるのだろうとちらりと見てしまう。
私の小さな過去の出来事ではバーテンダーになりたての頃の話がある。
メジャーカップを使う時、使った後は、用意してあるグラスのような容器にそれを入れて軽く洗うのだが、匂いやしつこいお酒を使った時にはそこで洗ってはいけないのだ。
理由は他のお酒を使うときにその匂いや味が付いてしまうからだ。
だからしっかりと洗い流さなければならない。
もしくはクセの強い酒を使う時はメジャーカップを使用しないという事はバーテンダーでは常識だ。
その説明をする時の例えでぺルノーがあげられる。
ぺルノーとかクセが強いお酒をメジャーカップで使ったらしっかり洗うんだよ、という風に。
ぺルノーやアブサンを使ったカクテルはいくつかあるようだが当ブログでもシャンパンの記事で登場していた。
バーテンダーがお勧めするシャンパンの愉しみ方
当時私はバーテンダーになって間もない頃で、何かの本で「午後の死」を発見した。
私の職場の隣にもバーがあって時々遊びに行っていた。
余ったスパークリングワインがあったので、あのカクテルを思い出した。
さっそく作ってもらったが作り手のバーテンダーがぺルノーをかなり多めに入れてしまって、かなり強烈な始めての「午後の死」を堪能した。
厳密に言うとシャンパンでもないし分量が違うので違うカクテルになると言う事もいえるが、とにかく印象深い。
それから私はこのカクテルと再会していない。
最後にこの短文でボヘミアンという単語を使ったのは理由があるがここではあえて言及しない。そういえば関係ないがボヘミアンドリームっていうカクテルがあった。
2008年6月04日 執筆

