気候が暖かくなってくるとウィスキーの水割りがますます美味しくなってきます。
私はウィスキーには無頓着で銘柄も飲み方もそれほどこだわりがありません。
知識も舌も普通のバーテンダーレベルといったところでしょうか。
ウィスキーの飲み方は大きく4種類あると思います。
ストレート、オンザロック(お水を少し加えるハーフロック)、水割り、
他の何かを加えるカクテルです。
PTOやケースバイケースで様々な飲み方を楽しんでいます。
それでも何種類かのウィスキーにはその時々の思い出があります。
そして「水割り」と言えば、一番に思い出す銘柄があります。
数年前に私は東京は新宿西口のあるBARで働いていた頃のお話です。
当時、私はバーテンダーの仕事を探しており、ある求人に応募しました。
アルバイトサイトで何度も見かけていたので、何かあるお店かもしれないと感じていましたが、逆に興味を引いたのです。
電話で問い合わせてみると、男性が取り次いでくれて簡単な質疑応答で翌日に面接が決まりました。
新宿の繁華街の中に埋もれるようにそのお店の入り口がひっそりとありました。
なかなか良い雰囲気だと感じましたが、それは店内もまったく同じ感想でした。
アメリカン風の木目調の内装は温かい木のぬくもりが感じられ、西部劇に出てくるような気がしてワクワクしました。
それだけでなく、そのお店はビルの2階にあったので狭い階段を上らなければならず、
それが逆にバー独特の秘密めいたトキメキを感じさせてくれました。
そこは30年ほどの歴史があるバーだったのです。
面接は簡単に終わってその場で採用と翌日からの勤務が決定しました。
私は少しは経験がありましたが、まだまだ見習いという事で不安がありましたが、
それよりも新しい環境への期待のほうが大きかったのです。
その時点で従業員は私を含めて5名しかおらず人手不足でした。
しかもその内4人は私のような見習いだったのです。
そういう状況もあって、そこでの話は激しい展開があったのでここでは述べませんが、次々とスタッフが入れ替わりました。
私は結局そこで3ヶ月しか勤務しませんでしたが、良い経験にもなりましたし、良い出会いもたくさんありました。
人手が足りないと言うことで過去に働いていた従業員が週に何度かは勤務するようになったのです。
何人かいたのですが、その中の一人に私より1つ年下の若者がいたのです。
彼は当時23歳ぐらいでした。
それが私と彼との出会いでした。
彼は地方出身でブラブラしており、ふらっと立ち寄ったバーで拾われた形でこの世界に入ったという
変わった経歴を持つバーテンダーでした。
その後は上京してバーで働き続けていました。
彼は明るく、フレンドリーでちゃらんぽらんな印象があると思われがちですが、
仕事は速く正確、接客も彼の良い性格が出ており、
バーテンダー業務だけでなくホール(ウェイター)業務も裏での簡単な調理も完璧にこなしていました。
特に記憶に鮮明なのが彼のバーカウンターでの立ち振る舞いでした。
そこはバーカウンターに2名のバーテンダーが入る形態だったのですが、
相方との連携も巧い、お客様の気配りや販売も巧い、カクテルも美味しそうに作る、何よりも表情が良かったのです。
今でも彼のようなバランスの良いバーテンダーには出会ってないと思います。
バーの営業が終わると電車の始発まで従業員みんなで好き勝手にお酒を飲んだり、
テイスティングをしたり、カクテル作りを練習したりして過ごしました。
時には激しい議論になったりと、とても楽しく勉強にもなりました。
そういう時に
「ウィスキーを水割りで飲むならどの銘柄が一番良いか?」
という議題が出たのです。
そうです、そこで彼が真っ先にサントリーの「山崎」を挙げたのです。
それで彼はおもむろにバックバーから山崎のボトルを取り出して、
水割りにして旨そうに飲んだのでした。
水割りにする「水」にもこだわる人がいます。
水もミネラル分や硬水か軟水かなど種類が豊富なのです。
基本的にそのウイスキーの故郷の水が一番マッチすると言われています。
「山崎」は京都出身なので京都のミネラルウォーターが合うのかもしれませんね。
その時はもちろん新宿の水を使用しました。
そこではそれが一番合う水だったのかもしれません。
この話は日常のほんの一場面ですが、なぜか私には忘れられないのです。


