現在はカクテルは気軽においしく飲めるお酒として世界的に普及しています。
そして様々な形に発展し続けています。
意外に知られていないのが現在のようなスタイルのカクテルになったのはほんの100年ほど前だということです。
しかし、カクテルの歴史はかなり古くからあるのです。これから考察していきましょう。
みなさんも大体の想像がつくと思いますがカクテルという物がお酒に何か混ぜたものだと
定義するなら(私はさらに幅広く捉えていますが)歴史はかなり古くなります。
カクテルの歴史を考えるとお酒の歴史にも触れなければなりません。
古くからのお酒は1番がワインで2番がビールです。
これらに何かを加えて飲んでいたのがカクテルの原始的な姿です。
私が面白いと思うのが現在でもそれを行っており、スタンダードカクテルにもなっているということです。
例えばワインクーラーがあります。ビールとジンジャーエールを混ぜるとシャンディーガフです。
これらはワインやビールを飲みやすくした形と言えるでしょう。
文献や史跡から読み取れるカクテルの歴史を古い順に追って行きましょう。
・紀元前(BC)3000年頃、古代エジプト
ビールに蜂蜜や生姜などを加えて飲んでいたようです。
当時これらはチズム、カルミ、コルマなどと呼ばれていたようです。
・紀元前(BC)509年から紀元(DC)476年、古代ローマ時代
クセジュ文庫の「味の美学」(Robert J.Courtine 著、黒木義典 訳/白水社刊)では、
古代ローマ人がワインに混ぜ物をして飲んでいた事を記しています。
「この混合は葡萄酒に対して悪い影響しか与えなかった。一番良い葡萄酒は非常に
アルコール分が強くて濃かったので、壷から杯に移すときに、その沈殿物を漉して
その場で水割りにしなければならなかった。もっとも良く飲む人でも水で割っていた。
そして、割ってない葡萄酒をこっそり飲むのは異常者か欠陥人間だけで、その人たちは
現在のエーテル常用者の様に非難されていた・・・」と書いています。
当時のローマではワインの水割りが市民の一般的な飲み方であって、
他にも粘土、石膏、海水、大理石の粉、樹脂、松脂などを加えていたようです。
・紀元640年頃、唐(中国)
ワインに馬乳を加えた乳酸飲料が飲まれていたようです。どんなものか想像がつきませんね。
・12〜17世紀の中世ヨーロッパ
冬季の寒冷化が起こり自然に飲み物を温めて飲むのが普及しました。
14世紀頃のヨーロッパはワインの生産が多かったこともあり大きな鍋に
ワインと薬草を入れ火で焼いた剣を鍋に入れて温めて飲んでいました。
これはフランスではヴァン・ショー、ドイツでグリューヴァイン、
北欧でグレッグと呼ばれている飲み物の祖先です。
現在でもカクテルブックに載っているマルド・ワインやマルド・ビアーです。
マルド・ワインは赤ワインにフルーツやスパイスなどを入れて火で煮たホットドリンクです。
ここまで歴史が古い順に説明しましたが私としてはやはりワインに何かを加えた飲み物が
1番歴史が古いと思います。文献や史跡が残っていないだけで人類は自然発生的に混ぜる
という行為を行っていたと思います。
そして、ホットドリンクに関しても同様で火でワインなどのお酒を温めるという行為は
かなり早くから行われていたと推測します。
加えて中世(10世紀以降ぐらい)には蒸留酒(スピリッツ)
(特にウォッカ、ブランデー、アクアビットなどが早くからあります。)も作られるようになった
のでビール・ワインしかなかった混合酒(ミクスト・ドリンク)は幅広く拡大していきました。
この辺りからなんとなく現在のようなカクテルに近づいていきます。
1630年頃 パンチ(Punch)がインド人によって発明され
イギリス人によって広められました。
パンチとはお酒にフルーツ、ジュースやスパイスなどを入れて作る
ホームパーティーで良く飲まれるドリンクです。
語源はヒンドスタニー語(近代インド語)で「5つ」を意味するパンジ(Panji)が
英語のパンチになったと言われています。
この後1600年代後半にインド在住の東インド会社のイギリス人たちに親しまれ、
それからイギリス本国にも紹介されて一般家庭にとけ込んでいきました。
それから1720年頃、ニーガス(Negus)が生まれました。
次に1740年頃に、グロッグ(Grog)が生まれました。
これらはお酒に何かを加えて温めたホットドリンクです。
1700年代前半のこの頃からカクテルという語が広まっていきました。
1815年にアメリカでミントジュレップが登場しました。
1830年にはジン・アンド・ビターズ(マティーニの原型)が登場しました。
1740年から1815年まで60年ほど開いていますが
この期間にも様々な形で飲まれていたと思います。
1855年に出版されたイギリスの作家であるサッカレーの小説「ニューカムズ」に
カクテルに関する箇所があります。
「大佐、あなたはブランデーカクテルを召し上がりますか」という一文です。
この事からも1800年代前半ぐらいからヨーロッパの社交界では
カクテルが浸透していた事がわかります。
しかし、ここまでのカクテルは現在のスタイルとは違った形となっていました。
1番の要因は「氷」です。現在のように気軽に氷が手に入らなかったのです。
裕福な人々が冬に池や湖が凍った氷を氷室で保存して使用する以外では不可能でした。
1879年 人口製氷機が誕生します。ミュンヘン工業大学のカール・フォン・リンデ教授
(1842〜1934)がアンモニア高圧冷却機の研究で業績を上げ、
1879年にはリンデ製氷機製作会社の社長になり人口の製氷機を発明しました。
それからカクテルをシェークしたりステアする技術が登場し、
我々が良く知っている「冷たい」カクテルが生まれたのです。
当時のカクテルはまだ一般大衆には普及していなくて主に上流階級の、
特に男性にディナーの前の食前酒として飲まれていました。
そしてそれらのカクテルはアルコール度数が強いものが多かったのです。
理由としては食前酒だったのと、当時はフルーツジュースが企業化、商品化されていなかったので
簡単に手に入らなかったためお酒同士を混ぜていたのでしょう。
1869年、ウエルチのグレープジュースが始めて商品化されてから
徐々にカクテルのバリエーションが広がっていきました。
1800年代後半からカクテルはヨーロッパではなくアメリカで拡大されていきました。
アメリカはカクテルに関しても古い考えやしきたりに捉われることがなく
新しいものを積極的に取り入れていたからです。
1876年 マンハッタン
1888年 ジン フィズ
1896年 ジンリッキー
1896年 ギムレット
1902年 ダイキリ
第一次世界大戦(1914〜1918)時にアメリカからヨーロッパに派遣された軍人によって
アメリカンスタイルのバーやカクテルがヨーロッパや世界に持ち込まれました。
1912年 ピンクレディー
1915年 シンガポール スリング
アメリカの禁酒法(1920〜1933)がカクテルの世界への普及に拍車を掛けました。
アメリカの都市では地下のモグリ営業の酒場(スピークイージー)が作られて
政府の目を逃れてお酒(カクテル)を楽しんでいました。
家庭でもこっそりお酒を楽しむ為に本棚そっくりのカクテルツールやホームバーが作られ、
バーツールも多様化されていきました。
アメリカのバーテンダーの中には職を求めてヨーロッパに渡り
アメリカンスタイルのバー、カクテルを広めていきました。
1920年代のヨーロッパはたくさんナイトクラブがオープンして
夜遅くまでお酒が楽しまれました。
1930年 カクテルブックのバイブルと言われる
「サボイ・カクテル・ブック」が出版されました。
作者のハリー・クラドックがいたロンドンのサボイホテルでもアメリカンバーが導入されました。
バー・酒場の客層の変化が起こりました。
それまでは男性のための場所でしたが女性客も利用するようになり
カクテルもそれに伴い拡大されていきました。
この頃のカクテルの特徴はブランデー、ジン、ウィスキーなどがベースで
ショートカクテルがほとんどでした。
第二次世界大戦(1939〜1945)が終わると待っていたかのように
たくさんのカクテルが急激に登場し始めました。
ヨーロッパでは
1945年 フランスでキール
1948年 イタリアでベリーニ など。
アメリカでは
1950年頃 ミキサーを使ったフローズンカクテルの誕生
ベースのお酒を出来るだけ出したバーボンやテキーラベースのカクテル、
ライト嗜好でアルコール度数の低いカクテルが見られるようになりました。
1941年 モスコミュール
1949年 マルガリータ など
1980年代 アメリカではヘルシーダイエットやシェープアップが流行り、
更にライト嗜好が強まりました。ウォッカ+フルーツジュースやジンや
ウオッカ・リキュールのソーダ割り・トニック割りなどシンプルなカクテルが人気が出ました。
シーブリーズ、ケープゴッター(ウォッカクランベリー)など。
また、ショットグラスでリキュール同士をミックスしたシューターもこの頃に登場します。
世界的にも沢山の種類の蒸留酒やリキュールが登場していきました。
そして現在に至るまでカクテルは進化しつづけています。
これからもますます発展していくでしょう。
ここまでカクテルの歴史を考察しましたが疑問があります。
現在はカクテルの重要な位置を占めているリキュールがほとんど取りざたされていません。
リキュールの歴史もかなり古く(例えばべネディクティンは1510年から存在します)
もっとカクテルに使用されてもおかしくはないはずなのです。
しかし、リキュールは秘伝・秘酒として扱われることが多かったので
なかなか世間に出回らなかったのでしょうか。
カクテルの歴史もおもしろいですね。様々な要因に影響を受けて発展していったのがわかります。

